技術試験衛星9号機(Engineering Test Satellite-9: ETS-9)は,静止通信衛星の国際市場における我が国の衛星メーカの産業競争力を向上させるために開発を進めており,衛星バス技術について様々な技術開発と実証を行う計画である.衛星の軌道姿勢制御の観点では,静止衛星軌道においても使用することができる静止衛星搭載用GPS受信機を搭載し,観測した位置・速度情報を基にしたオンボード軌道決定値を用いた自律軌道姿勢制御技術の実証を実施する計画となっている.なお,この自律軌道姿勢制御技術の獲得は,衛星の運用コストの削減や高精度な軌道姿勢制御の実施にもつなげることが可能な技術となっている.ETS-9に搭載する静止衛星用GPS受信機はJAXAおよびNECスペーステクノロジーにて開発を行った機器であり,その開発結果およびETS-9での使用コンセプトや軌道上での実証計画について述べる.
我々の太陽系では,46億年前に原始太陽系円盤内で塵が集積して多数の微惑星(小天体)が形成され,衝突・合体を繰り返して地球を含む惑星系が形成されてきたが,太陽系内には多数の小天体が残存しており,天体どうしの衝突が現在も続いている.直径数10 mの天体が地球に衝突すれば,1908年のツングースカ大爆発のように,巨大都市全域が被災する広範囲かつ大規模な災害をもたらし得る.地上観測に基づく軌道予測から,今後100年程度で地球に衝突する可能性があるのは直径数10 mの小惑星である.それらの衝突を回避する手段の構築や,地球衝突した場合の災害規模の推定には,探査機を送って小型の小惑星の表層状態や物性の直接調査,さらに衝突回避に必要となる探査技術の習得が喫緊の課題である.本稿では,JAXAが太陽系天体の探査計画において進めている惑星科学的・探査工学的なプラネタリーディフェンスへの貢献内容について概説する.
近年,超低軌道衛星,空気吸込式イオンエンジン,大気圏突入を要するカプセル等,様々なミッションにおいて極超音速希薄流における機体の空力特性評価が重要な課題となっている.つばめ(超低高度衛星技術試験機)は超低軌道を周回・運用する挑戦的・独創的な衛星であったため,高精度に希薄空力特性を評価する必要があった.つばめでは専用の希薄空力データベースを開発することにより,各運用モードにおける姿勢角情報から空力を計算して軌道計算を行うことにより,軌道決定精度の高度化を行った.本稿では希薄空力データベース開発および極超音速希薄風洞(Hypersonic Rarefied Wind Tunnel, HRWT)による希薄空力計測について述べる.
PS-1飛行艇は1960年代に新明和工業が開発した飛行艇で,STOL(Short Take Off and Landing)技術と耐波性技術による高い離着水性能を持つ.その性能は開発から半世紀以上たった現在でも世界一を誇る.PS-1には,大型機に世界で初めて適用されたBLC(Boundary Layer Control)システムなどのSTOL技術,独自の溝形波消し装置などの耐波性技術が適用されており,これら先進的な試みと実績が評価され,日本航空宇宙学会の航空宇宙技術遺産第二号に認定された.