超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS: Super Low Altitude Test Satellite)において,超低高度からの観測で大幅な分解能向上を技術実証するため,有効開口径20cmを有する小型高分解能光学センサ(SHIROP: Small and High Resolution OpticalSensor)を開発した.軌道高度300kmから150kmへの軌道遷移中に,様々な条件下で高分解能かつ高画質の衛星画像を多数取得し,超低高度からの光学観測の有用性を実証した.画期的な成果として,大きな大気抵抗やイオンエンジン噴射の環境下においても,目標地点を正確に指向し的確にTDI(Time Delay Integration)撮像を行い,軌道高度150km台にて海外の大型商用衛星並みとなるNIIRS6の高分解能画像を取得した.本稿では,SHIROPの開発過程と軌道上観測成果について紹介する.
RDE(回転デトネーションエンジン)は,比較的単純な構造ではあるが,高い燃焼圧力を発生させることが可能で,次世代航空宇宙用エンジンとして期待されている.RDEは,ある運転条件下では安定した波数・伝播速度で安定した燃焼特性を示すことが多くの実験で確認されており,現在は回転デトネーション現象の解明を目的とした基礎研究よりも,エンジンの実用化を目指した開発研究が主流となっている.しかし,回転デトネーションの安定燃焼条件は多分に経験則で決まっており,条件予測理論が確立されているとは言い難い.条件の予測に必要な燃焼現象の解析を妨げている原因の一つに,燃焼器内の熱負荷が格別に高く,接触型センサである圧力変換器や熱電対がすぐに焼損してしまうため,精度の高い計測データを提供できないことが挙げられる.本研究では,回転デトネーションの観察に光学計測技術を適用した.高速ビデオ撮影によって回転デトネーション波の波数と伝播速度を,CHラジカル発光により燃焼状態を,PSI(位相シフト干渉法)により回転デトネーション波の詳細構造を把握した.燃料総流量,当量比,インジェクタ形状(衝突型,非衝突型),燃焼器出口スロートの有無等の主要パラメータを変えたパラメトリック燃焼試験を実施した.今回の研究で,以下の傾向が確認された.(1)高流量域で安定した回転デトネーション波が発生する傾向がある.(2)出口スロート無し構成の燃焼器は,安定した回転デトネーション波が発生する傾向がある.(3)噴射形態の影響は明確で,衝突噴射孔の場合は安定した回転デトネーションが観測された.上記の結果は独立した事象ではなく,燃料と酸化剤の混合過程と密接に関係していると考えられる.また,本研究で適用したPSI光学観測技術は,回転デトネーション波の構造を解析するための強力な観測ツールであることが証明された.
本稿では,月面などの異重力環境下での運動技能上達効率について,我々のこれまでのヒトと金魚を用いた実験結果に基づき,神経科学の視点から考察する.また,身体運動制御における重要な要素に「空間識形成」と「予測」があるが,地球上と異なる重力環境がこれらの能力獲得に与える影響についても考察する.さらに,空間識形成に重要な基準軸を与える重力ベクトルの推定は,前庭覚や視覚の他,体性感覚,聴覚等の異種感覚情報統合により実現されることから,これらの感覚情報や情報統合過程を人為的に操作することにより,重力知覚を所望の状態に制御できる可能性があることを指摘する.こうした技術は,地球上にいながらメタバース空間内で,あるいは月や火星上において,異なる重力知覚を得ることによって我々の空間識を拡張し,新たなヒューマンネイチャー創発につながるものと期待できる.