Journal of Computer Chemistry, Japan
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ISSN-L : 1347-1767
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Communicating Computational Science Online
Yoshio HONMA
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2021 Volume 20 Issue 2 Pages A16-A18

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Abstract

新型コロナウイルスの影響で全国の科学イベントが制限されたりオンライン開催になるなどしている.日本コンピュータ化学会の公開イベント等も影響を受けていることを紹介し,計算科学の役割を知ってもらう上でも,オンラインコンテンツの公開やソーシャルメディア活用による連携の必要性を述べる.

Translated Abstract

As COVID-19 continues to spread, most of the science events in Japan have been canceled, postponed or held online. I will introduce that the public events and gatherings of the Society of Computer Chemistry of Japan are also limited, and describe the importance of digital content and social media collaboration, which is also intended to raise public awareness of the role of computational science.

1 はじめに

2011年に発足した日本コンピュータ化学会 科学コミュニケーション室(現室長は神部順子理事) [1]では各地で開催される学会秋季年会公開イベントや,お台場地域で毎秋催されるサイエンスアゴラ出展などにより計算科学だけでなく科学の役割や面白さを伝える活動を展開してきたが,2020年は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症COVID-19の広がりの影響で秋季年会がオンライン開催になったため公開イベントは中止になり,サイエンスアゴラもオンライン開催となり動画出展 [2]することとなった.大学においてもオンライン講義が多用されたほか,社会においてもリモートワークやネット利用販売が広まるなどインターネットが新型コロナウイルスに対抗する手段の一つになっていると見なせる面がある.科学への関心を高める活動においてもYouTube動画利用などが進んでいる.本稿では新型コロナウイルス禍(以下コロナ禍)以前と以後の科学コミュニケーション活動の一端を紹介する.

なお,例年の学会公開イベントの立案・調整・実施にあたっては科学コミュニケーション室の神部順子室長と中村恵子さん,事務局の和多田裕子さんに多大なご尽力をいただいていることを記して感謝したい.

2 2019年以前の科学コミュニケーション活動例

2011年以降の日本コンピュータ化学会のサイエンスアゴラ出展については,2011年の本学会10周年記念特集号において詳述し [3],それ以前の学会有志や本間個人による出展についても言及した.

その後の活動については科学コミュニケーション室別室ページ [1]で紹介しているが,筆者ほか有志で2007年から開催しているサイエンスカフェにいがた [4]の番外編として2013年ゴールデンウイークに新潟県立自然科学館で4日間ブース展示した際に,5月5日に長嶋雲兵副会長ほか学会メンバー3名に来県いただいてトークセッションを開くことができた [5].

また同年から江戸川大学においてサイエンスセミナーが開催されるようになり,学会メンバーの協力のほか,近隣の高校生の研究発表などもあって毎年活況を呈したが,2020 年はコロナ禍もあり大学独自でオンライン開催となった [6].

秋季年会における公開イベントは2013年から年会実行委員会のご尽力を得て福岡,郡山,函館,島根,熊本,弘前,広島と続けてきたが,やはり2020年(鹿児島開催予定)は年会自体がオンライン開催となったため残念ながら中止となった.

本稿執筆時点ではコロナ禍の収束は見通せず,リアルな出会いの場における多彩な活動が再開できる事態に戻ることを待ち望むばかりである.

ここで本学会以外の参考情報を1件紹介したい.オンライン開催となったサイエンスアゴラ2020に出展していた日本版AAAS設立準備委員会(2021年2月1日に正式発足し同日付け毎日新聞などに記事,日本版AAASの正式名称案を募集中) [7]は近年指摘されている日本における科学の危機を打開するために"分野,組織,職種・職階,世代の垣根を超え,科学を支える人が誰でも参加できるボトムアップ型の組織"としてスタートを目指すもので,現在多くのメンバー・賛同者が集っている.科学コミュニケーション活動も視野に入れているので今後に注目したい.

3 コロナ禍中の2020年の科学コミュニケーション関連トピック例

コロナ禍で在宅勤務・リモートワーク・テレワークが注目されているが,筆者自身は個人で運営しているWebサイト [8]での活動が主でもともと居場所にこだわらない面があり,上記のようなリアルの活動が制限された中で一定の活動を維持することができた.

なお同サイトは2021年7月に開設25周年を迎えるが,その時々に話題になった事項を取り上げてページを作成してきており,環境ホルモン(2020年公開のPFAS問題にも繋がる),化学物質過敏症(コロナ禍で再注目),BSE,GPCR,ゲノム編集,そして2020年公開の新型コロナウイルス情報など分子やタンパク質・核酸の構造などとともに紹介してその歴史もまとめている [9].また個別ページでなく数件のトピックをまとめたJmolトピックスページを2009年から掲載し始め,2020年11月に1000トピックを超えた.なお,Jmol利用コンテンツの分子モデルはInternet ExplorerまたはInternet ExplorerモードにしたMicrosoft Edgeで参照できる.

それらトピックの中から前項の過去の活動での繋がりなどがきっかけとなり,オンライン活動によって公開できたものを2件紹介したい.

サイエンスアゴラ2016出展 [10]のトークセッション「科学と文化を紡ぐ教育プロジェクト"ビッグヒストリー"」では世界中で注目されているビッグヒストリーを取り上げ,日本語版「ビッグヒストリー:われわれはどこから来て,どこへ行くのか」 [11]の翻訳監修に当たった長沼 毅さん(広島大学)にお話しいただいた.ブース展示では同書編集担当の柴村登治さんにもお手伝いいただいたのだが,2020年に同氏の編集で発刊された「飼いならす 世界を変えた10種の動植物」 [12]は訳者が第100回記念サイエンスカフェにいがたゲストの斉藤隆央さんであった縁もあってトピックで取り上げ [13],文中に出てくる分子の構造を表示できるようにしたほか,数多く出た書評などを紹介した(Figure 1).

Figure 1.

 Jmol topic No.984.

次にサイエンスアゴラ2017出展 [14]では国内最大の化学ポータルサイトChem-Station (ケムステ)代表の山口潤一郎さん(早稲田大学)にトークセッション「カガクをつなげるインターネット」のゲストを依頼した.2020年12月発刊の市販化学誌掲載の山口さんによる「【研究物語】エステルが芳香環上で踊る!?──世界初! エステルダンス反応の開発」を読んでトピックで取り上げた [15].化学反応を解説するYouTube動画で多数公開し,Twitterで紹介している @sinOrganicChem さんにそのことをTwitterメッセージで連絡してエステルダンス反応解説動画の作製を依頼して引き受けていただき,トピックに埋め込むことができたほか(Figure 2),Chem-Stationからも動画にリンクされた.

Figure 2.

 Jmol topic No. 996.

以上2件のようにソーシャルメディアにおいてはバーチャルな出会いが度々発生し,ネット資産を増やす契機にもなっている.リアルな場が時間と場所が限定されてしまうのに比べ,オンライン配信が保存されて公開されれば誰でもいつでも閲覧できるという利点もある.COVID-19についてもFacebookでは医師や関連分野の専門家が貴重な情報提供を行っている.リアルな場とバーチャルの場を行き交う繋がりの継続の重要性も実感しており,本学会においても計算科学の成果をアピールする多彩な発信を期待するところである.

参考文献およびWebページ
 
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